調査・研究活動

(1)新しい耐震設計法の提案

1995年兵庫県南部地震により多くの土木建造物、建築構造物が甚大な被害を受けた。被害の原因は、1995年以前の耐震設計では考慮されてこなかった内陸活断層近傍地域で、極めて強烈な地震動である。

地震後、このような大地震動を受けても構造物が完全倒壊せずに、人命を救うことが耐震設計の第一の目標として掲げられ、性能規制型・2段階地震動耐震設計法が採用されることになった。


兵庫県南部地震による高速道路橋脚の崩壊


土木学会による耐震設計法の策定

(2)地中構造物の耐震設計法の開発

海底トンネルやLNG地下タンクなど大型地中構造物の地震観測結果と模型実験結果にもとづいて、応答変位法による耐震設計法を提唱し、各種地中構造物の耐震設計法と耐震指針の整備を行った。


応答変位法による地下タンクの耐震設計

(3)地盤の液状化と側方流動に関する研究

3-1 側方流動による地盤変位の測定と分析

 液状化した地盤が水平方向に数mのオーダで移動する現象、いわゆる側方流動を1983年日本海中部地震の調査を契機に世界に先駆けて発見し、定量的な測量を行った。その後、1923年関東地震、1948年福井地震、1964年新潟地震、1971年米国サンフェルナンド地震、2010年ニュージーランド・ダーフィールド地震及び1995年兵庫県南部地震などによる側方流動を測定し、それらの結果を公開した。さらに液状化土の流体的特性を明らかにして、側方流動変位の予測手法を開発した。


1964年新潟地震による信濃川沿岸の地盤変位


信濃川沿岸の地震後の状況


1995年兵庫県南部地震による六甲アイランド北部での地盤変位

3-2 側方流動地盤変位抑止工法の開発

 東京湾、伊勢湾をはじめとする臨海部の産業施設を、側方流動より防護するため、地盤変位抑止工法の開発を行った。これらの工法の中で、鋼管杭を間隔をあけて打設する工法の有効性を、遠心載荷場での模型実感、数値解析および実地盤で杭基礎の観測などにより確認した。本工法は地盤改良工法などに比較し、工事費、工期の点において有利であるばかりでなく、狭隘地での施工に利点を有している。


側方流動地盤変位抑制工法の効果の検証実施位

3-3 戸建て住宅の液状化対策工法の開発

 2011年東北地方太平洋地震では、東京湾の埋立地に開発された住宅地において、多くの一般住宅が液状化により沈下や傾斜の被害を受けた。埋立地での住宅開発は我が国の各地で進められているが液状化対策を施工している事例は少ない。既存の一般住宅では杭の打設や地盤改良による液状化対策は、工事費、補強期間中の居住の確保などの観点からほとんど不可能である。そこで、既設の住宅を対象として、家屋周囲を軽量鋼管矢板で囲む工法を開発した。地盤改良工法などに比較して工事費も低く、居住しながらの施工が可能などの優位点を有している。


鋼管杭囲い込みによる住宅の液状化対策

3-4 液状化によって沈んだ島の調査

 1586年大分県別府湾を震源とするマグニチュード7.2の直下型地震が発生し、約1000人の住民とも海底に沈んだとされている。事実であるか、単なる伝説であるかは、現在も最終的な結果はついていない。東海大学海洋学部の練習船、望星丸と東海大学Ⅱ世丸を用いて、2年間に渡り別府湾の海底の調査を行った。この結果、現在の別府市の約4km沖合に”瓜生島“という島が存在していたが、海底地盤の大規模な液状化とそれに起因したと推定される海底地すべりによって島が沈没したと推論した。ただし、400年以上も前の災害で、信頼度の高い古文書の記録も少ないため、真偽の確定する証拠は得られていない。
 ところが、1999年フィリピンルソン島地震において、北部のリンガエン湾にあった砂洲が大規模沈下を起した。地震当時1,000人余りの人々が生活していた。海上にわずかに残った地盤には、液状化が原因と見られる噴砂や地割れが発生した。砂洲の大規模沈下の原因は液状化によるものと推定される。


別府湾にあったとされる瓜生島の古地図


フィリピンリンガエン湾の砂洲(一部が沈んでいる)

3-5 液状化・側方流動に関する日米共同研究の推進

 液状化地盤の側方流動に関しては米国においてもコーネル大学のトーマス・オルーク教授などを中心に研究が進められていた。1906年サンフランシスコ市東部地区の埋立地のミション・クリーク地区において地盤が水平方向2~3m移動したことが、地震後に撮影された道路の写真の解析により明らかになった。
 日米両国での研究の成果をもとに、カナダ、ニュージーランドなどの研究者の参加も得て、「液状化、地盤の大変位とライフラインの耐震性」と題する日米ワークショップが1986年より約10年間にわたって8回開催された。また、早稲田大学の学生とカリフォルニア大学サンディエゴ校の学生により、側方流動のメカニズム解明のための共同実験が行われた。



液状化地盤の大変位とライフラインの耐震性に関する日米ワークショップ


早稲田大学とカリフォルニア大学サンディエゴ校との共同実験



側方流動とライフラインの耐震性に関するケーススタディ

(4) 産業施設の強靭化に関する研究

4-1 一般財団法人産業施設防災技術調査会の設立

 臨海部埋立地に立地している石油精製事業、などの産業施設の強靭化を推進するため、一般財団法人産業施設防災技術調査会、Institute for Disaster Mitigation of Industrial Complexes(代表理事 濱田政則)が2014年に設立された。設立の目的は、防災力向上のための適正な設計・施工技術の開発と普及、産業施設防災のための防災データの蓄積と技術ガイドライン整備、及び防災対策事業を技術支援することにある。㈱篠崎研究所と「石油供給構造高度化事業コンソーシアム」を組織し、経済産業省による災害時における石油供給の安定化事業の審査業務を2014年より執行している。


石油精製施設の強靭化対策の推進

4-2 亜炭廃坑の安全性に関する調査

 中部地方を中心に亜炭廃坑が広く分布し、空洞残柱や天版の劣化により落盤事件がしばしば発生している。濱田研究室では2002年より、岐阜県御嵩町から調査依頼を受け、空洞位置と深度マップの作成、将来の東海・東南海地震で予測される陥没件数、電力や通信などライフライン施設の被害の予測を行うとともに、亜炭廃坑対策への助言と技術支援を御嵩町に対して行っている。


岐阜県御嵩町の亜炭廃坑位置・深度マップ

(5)地震被害調査と復旧・復興支援

5-1 日本の地震

 1995年兵庫県南部地震以降で死者・行方不明者を発しした地震災害について現地調査を行い、被害要因等の分析を行った。


1995年以降の我が国の地震・津波災害

5-2 世界の地震

 1995年兵庫県南部地震以来、1,000人以上の死者・行方不明者を出した地震・津波災害について現地調査と、被害要因の分析を行い、その結果を報告書として土木学会等より公開している。


世界の地震・津波災害(1995年以降、1,000人以上の死者・行方不明者を出した災害)

5-3 災害復旧技術支援

 世界に発生した地震災害からの復旧・復興の技術支援を行っている。

1990年フィリピンルソン島地震:

 1990年7月16日に発生したルソン島北部地震はダグパン市を中心に液状化による被害を発生させた。傾斜した5階建ての鉄筋コンクリート建物の復旧のため、20台のジャッキがボランティアにより提供され、日本人専門技術者の指導のもとに、図に示すような手法により建物を傾斜を復旧した。ダクパン市の大学の建物ではあるが現在も使用されている。


復旧対象とした5階建の鉄筋コンクリート建物


復旧の方法

2004年スマトラ沖地震・津波:

 地震・津波災害後、スマトラ島北部を対象として津波警報システムを提案するとともに、スマトラ西海岸道路復興の技術指針をインドネシア政府に提言した。津波警報システムはスマトラ西海岸においてインド洋に発生する地震による地震動を観測して、津波発生の発生有無と津波高さ、到達時間を判定し、スマトラ各地のモスクのミナレ(コーランを周辺地域に朝夕放送するための尖塔)を通じて、住民に警報を発するシステムである。


スマトラ津波警報システムの提案

2008年中国四川汶川地震:

 2008年5月12日に発生したマグニチュード7.9の汶川地震は死者・行方不明者8万7千名を超える大災害を引き起こした。州都の成都市とその近郊では強地震動によって多くの建物が崩壊や傾斜の被害を受けた。写真は都江堰市の6階建の集合住宅である。1階の柱が梁との接合部で大きく損傷した。この建物の復旧に関し、1995年兵庫県南部地震での建物の復旧実績を参考に、図に示すような復旧計画を提案し、この案に沿って復旧工事が行われた。現在も集合住宅として使用されている。

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